非常食はそろえたけれど、災害のあと義母が「食べたくない」と言ったらどうしよう。そんな心配が頭をよぎったことはないでしょうか。地震や停電のあとは、元気な大人でも食欲が落ちます。高齢の家族ならなおさらで、食べる量が減るのは珍しいことではありません。それは備えが足りなかったからでも、あなたの声かけが下手だからでもないのです。災害時の食欲低下には理由があり、その理由に合わせた物を少し備えておくだけで、食べられる日を増やせます。この記事では、食欲が落ちる理由と、低栄養を防ぐための備蓄の選び方、食べられない日の工夫を紹介します。
- 親が食べたくないと言う
- 非常食を残してしまう
- トイレを気にして水を控える
- 日に日にやせていく気がする
- どこで相談すべきか分からない

非常食は用意してあります。でも義母は小食で、ふだんでも食が細いんです。災害のときに食べてくれなかったらと思うと不安で。

食が細い方ほど心配になりますよね。災害のあとに食欲が落ちるのは自然なことです。量を食べさせるより、少しでも口に入りやすい物を用意しておくほうが、ずっと力になりますよ。
今日ひとつだけやるなら、家族の「これなら食べる」という好物を3つ書き出してみてください。それが、食欲が落ちた日のための備蓄を選ぶ一番の手がかりになります。
災害時に高齢者の食欲が落ちる理由

災害のあとに食欲が落ちるのは、気持ちの問題だけではありません。眠れない夜が続く疲れ、トイレへの気がかり、冷たい食事、口の中の変化など、いくつもの理由が重なって起こります。高齢の方はもともと食べる量が少なめなので、少し減っただけでも体への影響が出やすいのです。理由が分かれば、「食べなさい」と言う代わりに、食べやすくする工夫を選べるようになります。よくある理由を4つ紹介します。
不安と疲れで食べる気が起きない
大きな揺れのあとは、余震への不安や片付けの疲れで、体が緊張したままになります。気持ちが張りつめていると、おなかがすいたと感じにくくなるものです。食欲がないのは体が弱ったからとは限らず、まずは不安と疲れのサインとして受け止めてあげてください。夜に眠れない日が続くと、昼間もぼんやりして食事が進まなくなります。休める時間を作ることも、食事の準備のひとつと考えておくとよいでしょう。
トイレを気にして控えてしまう
断水や停電でトイレが使いにくくなると、高齢の方は「トイレに行かずに済むように」と、水分や食事を自分から減らしてしまうことがあります。家族に手間をかけさせたくないという遠慮から、黙って控えている場合も少なくありません。水分が足りなくなると食欲もさらに落ちるため、トイレの心配を先に減らしておくことが、食事を守ることにつながります。携帯トイレの備え方は在宅避難のトイレ 高齢者に必要な携帯トイレの数で紹介しました。
冷たく同じ味の食事が続く
停電中は温かい物を作りにくく、冷たいパンやおにぎり、同じ味の缶詰が何日も続きがちです。高齢の方は、冷たい物や乾いた物を口にしにくく、同じ味にもすぐに飽きてしまいます。一口でも温かい物があるだけで、食べる気持ちが戻ることは少なくありません。カセットコンロや、水を入れるだけで温まる発熱剤つきの食品などがあると、停電中でも温かい一品を用意できます。停電中の暖房や照明の備えは高齢者と暮らす家の照明・暖房・医療機器の備えで紹介しました。
入れ歯や口の中の不調
災害のあとは、入れ歯を外したままになったり、歯みがきができずに口の中が荒れたりして、食べにくくなることがあります。入れ歯が合わないと痛みが出て、やわらかい物しか食べられなくなる方もいます。食べる量が減ったときは、口の中に痛みや不具合がないかを一度たずねてみてください。入れ歯の備えは高齢者の入れ歯・補聴器・メガネの防災の備え、口の手入れは在宅避難の高齢者の清潔と口腔ケアの手順にまとめています。
- 余震への不安と疲れ
- 眠れない夜が続く
- トイレを気にした我慢
- 冷たく同じ味の食事
- 入れ歯や口の中の痛み
災害時の高齢者の低栄養を防ぐ備え

低栄養とは、食べる量が減って、体を動かすためのエネルギーや、筋肉のもとになるたんぱく質が足りなくなった状態のことです。高齢の方が低栄養になると、体力が落ちて転びやすくなったり、かぜをこじらせやすくなったりします。災害の数日で急に起こるというより、食べられない日が続くうちに少しずつ進んでいくものです。だからこそ、量を食べられない日でも栄養をとりやすい物を、ふだんの備蓄に少し混ぜておくことが大切です。備えのポイントを4つ紹介します。

少量で栄養がとれる物を選ぶ
食欲がないときは、たくさんの量を食べるのが難しくなります。そこで、少ない量でもエネルギーやたんぱく質をとりやすい物を備えておくと安心です。たとえば、魚の缶詰、豆腐や卵の入ったレトルト、ようかん、ナッツのペースト、粉ミルク入りの飲み物などがあります。おかずを一品増やすより、一口あたりの栄養が多い物を選ぶほうが、小食の家族には向いています。噛む力や飲み込む力に合わせた選び方は高齢者がいる家庭の在宅避難 食料備蓄の選び方で詳しく紹介しました。
好物と甘い物を入れておく
栄養のことばかり考えると、つい「体に良い物」で備蓄を固めてしまいがちです。けれども、食欲が落ちた日に口に入るのは、食べ慣れた好物や、少し甘い物であることが多いのです。好きなお菓子や果物の缶詰、甘いゼリー飲料なども、食べるきっかけを作る大切な備蓄です。ふだんの買い物のついでに少し多めに買い、食べながら買い足していけば無駄になりません。回し方は在宅避難の備蓄 ローリングストックの回し方で紹介しています。
温かくして食べられる物
温かいおかゆやスープは、体を温め、気持ちを落ち着かせてくれます。冷たい食事が続くと食べる気が失せやすいので、温めて食べられる物を意識して備えておきましょう。カセットコンロとボンベがあれば、レトルトや缶詰を湯せんするだけで温かい一品が作れます。お湯を沸かせないときのために、水だけで戻せるアルファ米のおかゆもあると、主食に困りません。ボンベは使う量を見込んで、少し多めに用意しておくと安心です。
栄養補助食品は主治医に相談
少ない量でエネルギーやたんぱく質をとれる栄養補助の飲み物やゼリーは、食欲が落ちた日の心強い味方になります。ただし、腎臓病や糖尿病などで食事制限を受けている方には、合わないものもあります。栄養補助食品を備えるときは、家族の体の状態に合うかどうかを、かかりつけ医や管理栄養士に確認してから選んでください。食事制限がある場合の備え方は高齢者の食事制限と防災備蓄の選び方にまとめました。
- 白がゆ・梅がゆ
- 魚の缶詰や豆のレトルト
- 好きなお菓子と果物の缶詰
- ゼリー飲料や甘い飲み物
- カセットコンロとボンベ
食べられない日の食べ方の工夫

備蓄があっても、実際に食べられるかどうかは、その日の気分や体調にも左右されます。無理に食べさせようとすると、かえって食事の時間がつらいものになってしまうでしょう。食べる量よりも「少しでも口に入る時間を増やす」ことを目標にすると、家族の気持ちも楽になります。1回で食べきれなくても、回数を分ければ1日に口に入る量は増やせます。家庭でできる工夫を4つ紹介します。
1日3食にこだわらない
食欲がないときに、決まった時間に1食分を食べきるのは大変です。そんな日は、量を少なくして、食べる回数を増やしてみましょう。おかゆを半分、ゼリーを1つ、ようかんを一切れというように、少しずつ何回かに分けて食べても十分です。食べられそうなときにすぐ出せるよう、手の届く場所に小分けの物を置いておくと便利です。時間を決めるより、本人が「少し食べようかな」と思えたときを逃さないことを大切にしてください。
水分を先にとってもらう
高齢の方は、のどの渇きを感じにくく、気づかないうちに水分が足りなくなることがあります。水分が足りないと、ぼんやりしたり、食欲がさらに落ちたりしやすくなります。食事が進まない日は、まず水分をこまめにとってもらうことから始めてください。お茶や水が進まなければ、スープやゼリー飲料、果物の缶詰のシロップなど、口に入りやすい形でもかまいません。心臓や腎臓の病気で水分の量を控えるよう言われている方は、災害時にどれくらい飲んでよいかを主治医に確かめておきましょう。水の備え方は高齢者がいる家庭の水の備えで紹介しました。
家族と一緒に食べる
一人で食べる食事は、どうしても箸が進みにくくなります。災害のあとは家族も片付けや情報集めで忙しく、高齢の家族だけが先に一人で食べることも増えがちです。短い時間でも同じテーブルで食べるだけで、食べる量が増えることがあります。「これ、おいしいね」と声をかけたり、好物を少し分け合ったりするだけでも、食事の時間が和らぎます。話しながら食べることで、本人の体調や不安に気づくきっかけにもなるでしょう。
少し体を動かす時間を作る
一日中横になっていると、おなかがすきにくくなり、食欲も戻りにくくなります。座って足首を動かす、家の中を少し歩くなど、軽く体を動かす時間を作ると、食欲が出やすくなることがあります。体を動かすのは無理のない範囲で、できる人だけにとどめ、痛みや息苦しさが出たらすぐにやめてください。持病がある方は、かかりつけ医やケアマネジャーに相談してから始めると安心です。家でできる動き方は災害時の高齢者の体力低下 在宅避難でできる予防で紹介しました。

見逃したくない低栄養のサイン

食欲が落ちるのは自然なことですが、食べられない日が長く続くと、体への負担が大きくなります。家族が少しだけ気にかけて変化に気づければ、早めに相談でき、悪くなる前に手を打てます。毎日きっちり記録する必要はなく、「いつもと違う」に気づければ十分です。食べる量が少ない日が何日も続くときは、様子を見すぎず、早めに相談することを覚えておいてください。気をつけたいサインと相談先を4つ紹介します。
食べた量が少ない日が続く
いつもの半分くらいしか食べられない日が、2〜3日以上続いていないかを見てください。メモ用紙に「朝おかゆ半分、昼ゼリー1つ」と書いておくだけでも、変化に気づきやすくなります。記録があると、相談するときにも「いつから、どれくらい」を正確に伝えられます。食べた量に加えて、飲んだ量もざっくり書いておくと、脱水に早く気づく手がかりになります。家族で交代して見ている場合は、メモを同じ場所に置いて共有しましょう。
服のゆるみや体重の変化
体重計が使えれば、ときどき量っておくと変化が分かります。体重計がなくても、ズボンのウエストがゆるくなった、指輪や腕時計がゆるくなった、頬がこけてきたといった変化は、見た目で気づけるサインです。やせてきたと感じたら、それは「少し食べる量を増やす工夫が必要」という合図と受け止めてください。急に体重が減った場合や、ほかの症状をともなう場合は、早めにかかりつけ医に相談しましょう。
ぼんやりする・尿が減る
呼びかけへの反応がいつもより鈍い、ぼんやりしている、尿の回数や量が減った、口の中が乾いているといった様子は、水分や栄養が足りていないサインのことがあります。呼びかけに答えにくい、ふらついて立てないなどの様子があるときは、迷わず医療機関や救急に連絡してください。災害時に受診先が分からないときは、お住まいの市区町村が案内する救護所や相談窓口を確認しておくと安心です。判断に迷うときは、救急相談の電話窓口がある地域もあります。
相談先を決めておく
食べられない日が続いたときに、誰に相談するかを平時に決めておくと、迷わずに動けます。かかりつけ医、担当のケアマネジャー、地域包括支援センターなどが主な相談先です。連絡先を紙に書き、お薬手帳と一緒に保管しておけば、停電でスマホが使えないときにも困りません。介護サービスが止まった数日の過ごし方は災害時デイサービスが休みのときの介護で紹介しました。相談先や窓口の名前は自治体によって違うため、お住まいの市区町村で確認してください。
- 呼びかけに答えにくい
- ふらついて立てない
- 尿がほとんど出ない
- 何日もほとんど食べていない
- 水分も受けつけない
よくある質問

災害時の高齢者の食欲低下と低栄養について、よく寄せられる疑問をまとめました。ここで紹介するのは一般的な考え方の目安で、持病や体の状態によって適した対応は変わるため、最終的にはかかりつけ医の指示に従ってください。気になる項目だけ読んでいただいて構いません。相談先に迷ったら、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに聞いてみるのもひとつの方法です。
食べないときは無理に食べさせるべきですか
無理に食べさせる必要はありません。むせたり、食事の時間がつらくなったりすると、かえって食べられなくなります。量を少なくして回数を増やす、好物を出す、水分を先にとるといった工夫を試してみてください。食べられない日が続く場合は、早めにかかりつけ医に相談しましょう。
非常食は家族と同じ物で大丈夫ですか
噛む力や飲み込む力に問題がなく、食事制限もなければ、家族と同じ物で大丈夫です。そのうえで、おかゆや好物、甘い物など、食欲が落ちた日でも口に入りやすい物を少し足しておくと安心です。
栄養補助食品はどれを選べばいいですか
栄養補助の飲み物やゼリーは種類が多く、エネルギーを補う物、たんぱく質を補う物などがあります。持病や食事制限によって合う物が違うため、かかりつけ医や管理栄養士に相談してから選んでください。ふだんから使っている物があれば、それを少し多めに備えておくのが確実です。
何日くらい食べられないと心配ですか
体の状態によって違うため、一律の日数は言えません。目安として、いつもの半分以下の量しか食べられない日が数日続く場合や、水分もとれない場合は、早めに相談することをおすすめします。ぼんやりする、立てないといった様子があるときは、日数にかかわらずすぐに医療機関へ連絡してください。
甘い物ばかりでも大丈夫ですか
食欲がないときは、食べられる物を口にすることが先決です。甘い物でも、何も食べないよりは体の助けになります。ただし、糖尿病などで甘い物を控えるよう言われている方は、災害時の考え方を前もって主治医に確かめておきましょう。少し食べられるようになったら、たんぱく質のとれる物を一品足していくと安心です。
まとめ

災害のあとに高齢の家族の食欲が落ちるのは、不安や疲れ、トイレへの気がかり、冷たい食事などが重なって起こる自然なことです。量を食べさせることより、少しでも口に入りやすい物を備え、食べられる回数を増やすことが、低栄養を防ぐ近道になります。食べられない日が続くときは、一人で抱えずに早めに相談してください。
- 食欲低下には理由がある
- トイレの心配を先に減らす
- 少量で栄養がとれる物を備える
- 好物と甘い物も備蓄に入れる
- 少量を何回かに分けて食べる
- 続くときは早めに相談する
今日は、家族の「これなら食べる」という好物を3つ書き出すところから始めてください。そのうちの1つを、次の買い物で少し多めに買っておくだけでも、立派な備えになります。


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