断水や停電が続くと、高齢の家族をお風呂に入れられない日が出てきます。歯みがきの水も惜しくなり、口のケアは後回しになりがちです。けれど、体や口を清潔に保つことは、在宅避難の暮らしの中で体調を守る大切な手段の一つになります。特に口の中の汚れは、飲み込む力が弱った高齢者では、肺炎につながるおそれがあると言われています。お風呂に入れなくても、タオル1枚とコップ半分ほどの水があれば、体と口の清潔はかなりの部分まで保てます。この記事では、断水中でもできる体のふき方と口腔ケア(口の中のお手入れ)の手順をまとめました。
- 断水したらお風呂はどうする
- 歯みがきの水がもったいない
- 体をふく手順が分からない
- 義母が嫌がりそうで気が重い
- 何を用意すればいいか不明

断水したら、義母をお風呂に入れられませんよね。歯みがきの水まで気にしていたら、清潔のことまで手が回らない気がします。

水が止まると、まず飲み水とトイレで頭がいっぱいになるのは当然のことです。清潔は「毎日全部」を目指さなくて大丈夫ですよ。口と、汗をかきやすい場所だけを少ない水で整える。それだけでも十分に意味があります。
今日ひとつだけやるなら、家にある体ふきシートと歯ブラシの予備が何本あるか、数えてみてください。数が分かるだけで、断水した日に何から始めればいいかが見えてくるはずです。
在宅避難の高齢者の清潔と口腔ケア

在宅避難では、水も時間も限られます。そのため、体を洗うことや歯みがきは「できたらやること」になりがちです。ところが高齢の家族にとって、清潔を保つことは見た目や気分のためだけではありません。過去の大きな災害では、避難生活の中で肺炎にかかる高齢者が少なくなかったことが知られています。清潔は、ぜいたくではなく体調を守る備えの一つとして考えてください。なぜ大切なのかを、3つの面から見ていきます。
口の汚れが肺炎につながることも
年を重ねると、食べ物や唾液が気管に入りやすくなります。口の中に汚れや細菌が多い状態で、唾液と一緒にそれが気管へ入ると、肺炎(誤嚥性肺炎)を起こすことがあります。災害のあとは歯みがきの回数が減り、水分も控えがちになるため、口の中が汚れやすくなるでしょう。口のケアを続けることで、こうした肺炎の危険を減らせる可能性があると考えられています。
皮膚の汚れはかぶれのもと
汗や汚れが残ったままだと、わきの下や股、おむつの当たる部分などがかぶれやすくなります。高齢者の皮膚は薄く、乾燥もしやすいため、小さな傷から悪化することがあるのです。寝ている時間が長い方は、床ずれ(褥瘡)にも気をつけたいところです。全身をきれいにできなくても、汚れやすい場所だけをふくだけで、皮膚のトラブルは防ぎやすくなります。
さっぱりすると気持ちも上向く
体をふいて着替えると、それだけで気分が変わるものです。何日も同じ服のまま過ごすと、気持ちが沈み、食欲や動く意欲まで落ちてしまうことがあります。清潔のケアは、家族が声をかけ、体に触れるきっかけにもなります。顔色や皮膚の様子、痛がる場所がないかを確かめる時間として使うこともできるでしょう。
- 口の中の汚れが増える
- むせたときに肺炎の心配
- わきや股のかぶれ
- 寝たままの方の床ずれ
- 気持ちの落ち込み
少ない水でできる口腔ケア

口のケアは、たくさんの水がなくてもできます。大切なのは、すすぎの水の量よりも、歯ブラシやガーゼで汚れをこすり取ることです。コップ半分ほどの水と歯ブラシがあれば、ふだんに近い歯みがきができます。歯ブラシがないとき、水がほとんどないときの方法もあわせて紹介します。むせやすい家族のケアは、必ず座った姿勢で行ってください。
コップ半分の水で歯みがき
コップに少しだけ水を入れ、歯ブラシを湿らせて磨きます。歯みがき粉は使わないか、ごく少量にすると、すすぎの水が少なくて済みます。すすぐときは、コップの水を一度に使わず、少しずつ2〜3回に分けて口に含みましょう。椅子やベッドの上で背筋を起こし、あごを少し引いた姿勢にすると、むせにくくなります。

歯ブラシがないときはふき取る
歯ブラシが手元にないときや、本人が歯みがきを嫌がるときは、ふき取るだけでも汚れは落ちます。人さし指にガーゼやハンカチを巻き、少し湿らせて、歯の表面、歯ぐき、ほおの内側をやさしくなでるようにふきましょう。口の中をふく専用のシートがあれば、水がなくても使えます。舌の汚れも、やわらかいガーゼで奥から手前へ軽くなでる程度で十分です。
入れ歯は外して汚れを落とす
入れ歯を使っている家族は、食後に一度外して、歯ブラシで汚れを落としましょう。水が少ないときは、ティッシュやガーゼで汚れをふき取ってから、少量の水で軽く流す方法もあります。夜は外して、乾かないようケースに入れて休ませるのが基本です。入れ歯の置き場所の決め方は高齢者の入れ歯・補聴器・メガネの防災の備えでも紹介しています。
- 寝たままの姿勢でのケア
- 水を一度に多く含ませる
- むせる人の強いうがい
- 嫌がるのに無理に口を開ける
- 出血するほど強くこする
お風呂に入れない日の体のふき方

お風呂に入れない日は、タオルやシートで体をふく「清拭(せいしき)」で清潔を保ちます。毎日全身をふく必要はありません。汗をかきやすい場所と汚れやすい場所を中心に、本人の体調に合わせて少しずつ行えば十分です。痛みや息苦しさが出たら、そこで中止してください。持病のある家族は、かかりつけ医やケアマネジャーに、ふいてよい範囲を前もって聞いておくと安心です。順番と、水を減らす工夫を見ていきましょう。
上から下へ、きれいな所から
体をふくときは、顔と首から始め、腕と手、胸とおなか、背中、足の順に、上から下へ進めます。きれいな場所から汚れやすい場所へ進むのが基本で、股やおしりは最後に、別のタオルかシートでふきましょう。一度に全身を出すと体が冷えるため、ふく場所だけを出し、終わったところからすぐにタオルや服で覆います。寒い時期は、部屋を暖めてから行うと体への負担が少なくなります。

汗をかく場所を先に
全身をふく時間や体力がない日は、場所をしぼりましょう。首の後ろ、わきの下、乳房の下、股、足の指の間は、汗や汚れがたまりやすい場所です。ここをふくだけでも、かぶれやにおいはかなり防げます。ふいたあとは、乾いたタオルで水気をしっかり取ってください。湿ったままだと、かえって皮膚がふやけて傷つきやすくなるからです。
少ない水で温かいタオルを作る
温かいタオルでふくと、汚れが落ちやすく、体も冷えにくくなります。濡らして固くしぼったタオルをポリ袋に入れ、電子レンジで温めるか、カセットコンロでお湯を沸かして浸す方法があるでしょう。熱くなりすぎることがあるので、必ず家族の手で温度を確かめてから使います。お湯が用意できない日は、体ふきシートやドライシャンプーで代えても構いません。洗面器に少しのお湯を張り、手や足だけを温める「部分浴」も、少ない水でさっぱりできる方法です。
- 痛みが出たとき
- 息苦しそうなとき
- 寒がって震えているとき
- 顔色が悪いとき
- 本人が強く嫌がるとき
今日そろえる清潔の備え

体と口のケアに使う物は、ドラッグストアで手に入る身近な物がほとんどです。特別な介護用品をそろえる必要はありません。ポイントは、断水した日に「水を使わずに済む物」を少し多めに持っておくことです。ふだん使っている物を少し多めに買い置きし、使った分だけ買い足す。この形なら、無理なく続けられます。そろえておきたい物を3つに分けて紹介します。断水時の水の量の考え方は断水しても慌てない 高齢者がいる家庭の水の備えも参考にしてください。
体ふきシートとドライシャンプー
体ふきシートは、大判で厚手のものが1枚で広くふけて便利です。介護用として売られているものは、肌にやさしい成分のものが多く、高齢者にも使いやすいでしょう。水を使わずに髪の汚れを落とせるドライシャンプーも、1本あると安心です。ふだんの入浴が難しい日にも使えるので、試しに一度使ってみると、本人も嫌がりにくくなります。
口のケア用品は予備を1組
歯ブラシの予備、口の中をふけるシート、ガーゼを、持ち出し袋と家の中に1組ずつ用意しておきましょう。入れ歯を使っている家族なら、入れ歯ケースと洗浄剤も一緒にしておきます。洗口液(マウスウォッシュ)を使う場合は、刺激の少ないノンアルコールのものを選ぶと、口にしみにくくなります。ただし、むせやすい方は飲み込んでしまうことがあるため、使い方はかかりつけの歯科に相談してください。
使い捨て手袋とポリ袋も
介助する家族の手を清潔に保つため、使い捨て手袋があると安心です。断水中は手を洗う水も限られるからです。汚れたシートやおむつを入れるポリ袋、においを防ぐ袋もあわせて備えておきましょう。トイレの備えとまとめて考えると、置き場所も一か所で済みます。トイレの備えは在宅避難のトイレ 高齢者に必要な携帯トイレの数で詳しく紹介しました。
- 大判の体ふきシート
- ドライシャンプー
- 歯ブラシの予備
- 口の中をふけるシート
- ガーゼとハンドタオル
- 使い捨て手袋とポリ袋
よくある質問

断水中の清潔と口腔ケアについて、よく寄せられる疑問をまとめました。体の状態は一人ひとり違うため、迷ったときはかかりつけ医や歯科、ケアマネジャーに相談するのがいちばん確実です。ここでは、ふだんのうちに知っておくと役立つ考え方を中心に紹介します。気になる項目だけ読んでいただいて構いません。
お風呂に何日入れなくても大丈夫ですか
何日までなら大丈夫、という決まった日数はありません。体をふいて着替えができていれば、数日お風呂に入れなくても、清潔はある程度保てます。皮膚の赤み、かゆみ、ただれが出てきたときは、早めにかかりつけ医や訪問看護に相談してください。
歯みがきを嫌がるときはどうしますか
無理に口を開けさせると、かえってケアを嫌がるようになります。時間を少しずらして声をかけ直す、本人ができる部分は自分でやってもらう、といった工夫をしてみましょう。どうしても難しい日は、食後に少量の水で口をゆすぐだけでも、何もしないよりは汚れを減らせます。
水がまったくないときはどうしますか
口の中をふけるシートや、体ふきシートを使えば、水がなくてもケアはできます。シートもないときは、ハンカチやティッシュで歯の表面の汚れをふき取るだけでも違うでしょう。飲み水は命に関わるため、清潔のために飲み水を使い切らないよう、使う量は家族で決めておいてください。
デイサービスの入浴が止まったら
災害のあとは、デイサービスや訪問入浴が休みになることがあります。再開の見通しや、家でのケアの方法は、担当のケアマネジャーに相談しましょう。介護サービスが止まった間の過ごし方は災害時デイサービスが休みのときの介護にまとめています。
介助で腰を痛めないか心配です
ベッドの高さを上げる、本人に横向きになってもらうなど、介助する人がかがみ込まずに済む姿勢を作ると、腰への負担が減ります。一人で全部ふこうとせず、背中など本人の手が届かない場所だけを手伝う形でも構いません。家族の体を守ることも、在宅避難を続けるための大切な備えです。
まとめ

断水してお風呂に入れなくても、体と口の清潔は少ない水で保てます。口の中の汚れを減らすことは肺炎の予防につながる可能性があり、汗をかきやすい場所をふくだけでも皮膚のトラブルは防ぎやすくなるでしょう。毎日全部ではなく、口と汚れやすい場所だけ。この考え方なら、介助する家族も無理なく続けられます。
- 清潔は体調を守る備え
- 歯みがきはコップ半分の水
- むせやすい人は座って
- 体は上から下へふく
- 痛みや息苦しさで中止
- シートと手袋を少し多めに
今日は、家にある体ふきシートと歯ブラシの予備を数えて、足りなければ次の買い物のメモに書き足してみてください。持病のある家族がいる場合は、次の受診やケアマネジャーとの面談のときに、「お風呂に入れないとき、体をふいてよい範囲」を一言聞いておくと、いざというときに迷わずに済みます。


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