大きな地震のニュースを見たとき、まっ先に頭に浮かぶのが、遠くの実家で暮らす親のことではないでしょうか。電話をかけてもつながらない、すぐに車を出しても何時間もかかる。そんな場面を想像して、胸がざわつく方は少なくありません。離れて暮らしていると、災害の当日にできることは、どうしても限られます。だからこそ、遠距離の親の防災は「駆けつけること」ではなく「駆けつけられなくても困らない準備」を平時に進めることが中心になります。この記事では、帰省のときに確かめたいこと、災害時の連絡の順番、近くで頼れる人のつくり方をまとめました。
- 地震のとき電話がつながらない
- すぐに駆けつけられない距離
- 実家の備えが分からない
- 親が「大丈夫」としか言わない
- 近所に頼れる人がいるか不明

実家の母が一人暮らしで、車で3時間かかります。地震のニュースが出るたびに電話するんですが、「大丈夫よ」と言うばかりで、本当に備えができているのか分からなくて。

離れていると、様子が見えないぶん心配が大きくなりますよね。すぐに行けないのは、あなたの気持ちが足りないからではありません。距離があっても、帰省1回と電話1本でできる備えがありますよ。
今日ひとつだけやるなら、実家の近くに住む知り合いやご近所の方の電話番号を、1つだけ自分のスマホに登録してください。災害のとき、親の様子を見に行ってもらえる人がいるかどうかで、安心の度合いは大きく変わります。
離れて暮らす親の防災の考え方

同居している家族の防災と、遠距離の親の防災とでは、備えの組み立て方が違います。同居なら、揺れたその場で家族が手を貸せます。一方、離れて暮らしていると、発災から数時間、場合によっては数日、親は自分の力と近くの人の助けで過ごすことになります。遠距離の防災で目指すのは、子どもがいなくても親が家で数日過ごせる状態と、様子を確かめる手段を前もってつくっておくことです。考え方の柱を3つ紹介します。
すぐには行けない前提で考える
大きな災害の直後は、道路が通れなくなったり、鉄道が止まったりします。たとえ近い距離でも、発災当日にたどり着けるとは限りません。無理に向かうと、自分が二次災害に巻き込まれることもあります。「行けば何とかなる」ではなく「行けなくても回る」を目標にすると、やるべきことがはっきりします。親が家で過ごすための備蓄や家具の固定は、そのための土台です。
実家の今の状態を知っておく
離れて暮らしていると、実家の様子は子どもの頃の記憶のまま止まりがちです。家具の配置が変わっていたり、足腰が弱って2階に上がらなくなっていたりと、知らないうちに暮らし方は変わっています。親の体の状態や、使っている介護サービス、飲んでいる薬も、分かる範囲で把握しておきましょう。知っている情報が多いほど、いざというときに周りの人へ正確に伝えられます。
連絡がつかない時間を想定する
災害の直後は、電話が混み合ってつながりにくくなります。停電で固定電話が使えなくなったり、親の携帯電話の充電が切れたりすることもあるでしょう。連絡がつかないことは、それだけで危険を意味するわけではありません。つながらない時間があることを前もって知っておき、その間にどう動くかを決めておけば、慌てずに済みます。
- 親が家で数日過ごせる備え
- 連絡がつかないときの段取り
- 実家の近くで頼れる人
帰省のときに確かめること

離れて暮らす親の家の備えを進める、いちばんの機会は帰省です。年に数回しか行けなくても、1回の帰省で確かめられることはたくさんあります。とはいえ、親の家に手を入れようとすると、「余計なことはしなくていい」と言われることもあるでしょう。全部を一度に変えようとせず、1回の帰省で1つか2つに絞って進めるのが、長く続けるコツです。確かめたいことを4つにまとめました。

寝室の家具が倒れてこないか
最初に見てほしいのは、親が寝ている部屋です。夜中に大きく揺れたとき、高齢の方はすぐに起き上がって逃げることができません。寝ている場所にタンスや本棚が倒れてこないかを確かめ、必要なら配置を変えるか固定します。親の家の壁に穴を開けるのがためらわれる場合は、天井との間に突っ張る器具や、家具の下に敷くマットという方法もあります。寝室を先に安全にする考え方は高齢者がいる家庭の家具固定 まず倒れない場所からで紹介しました。
薬とお薬手帳を写真に残す
持病の薬を飲んでいる親の場合、薬の名前と量が分かることがとても大切です。帰省したときに、お薬手帳の最新のページと、飲んでいる薬の袋をスマホで撮っておきましょう。手元に写真があれば、親が避難先で薬をなくしても、子どもの側から医療者に情報を伝えられます。かかりつけの医療機関と薬局の名前と電話番号も、一緒に控えておくと安心です。薬の備え方は高齢の親の防災の備えと常備薬の持ち出し方も参考にしてください。
水と明かりの置き場所を決める
実家にある備蓄を、親と一緒に確かめます。水やレトルト食品があっても、押し入れの奥にしまってあると、足腰の弱い親には取り出せません。手の届く高さに置き場所を決め直しましょう。懐中電灯は、枕元と玄関の2か所にあると、夜の停電にも慌てずに済みます。新しく買いそろえる前に、今あるものを「親が使える場所」に移すだけでも、備えは大きく前に進みます。
親と連絡の約束を交わす
帰省のときに、災害が起きたらどう連絡を取り合うかを親と話しておきます。「揺れたら、落ち着いてから一言だけ電話かメールをして」「つながらないときは171に録音して」と、具体的な行動で約束するのがポイントです。約束は紙に書いて、電話の近くに貼っておくと、いざというときに思い出しやすくなります。耳が遠い親なら、文字で残せるメールやメッセージを使う方法も決めておきましょう。
- お薬手帳の最新ページの写真
- かかりつけ医と薬局の連絡先
- 担当ケアマネジャーの連絡先
- 近所で頼れる人の電話番号
- 近くの避難所の場所
災害時の連絡と安否確認の手順

災害の当日、離れて暮らす子どもにできるいちばん大事なことは、親の無事を確かめ、必要なら近くの人につなぐことです。ただ、電話がつながらないと、何度もかけ直したくなるでしょう。やみくもにかけ続けるより、順番を決めて落ち着いて動くほうが、結果的に早く安否が分かります。連絡の手段と、つながらないときの順番を3つに分けて紹介します。
災害用伝言ダイヤル171を使う
大きな災害が起きると、NTTの「災害用伝言ダイヤル171」が使えるようになります。171に電話をかけ、親の家の電話番号を使って声の伝言を録音したり、聞いたりできる仕組みです。携帯電話会社も、文字で安否を登録できる「災害用伝言板」を用意しています。毎月1日と15日などには体験利用ができるので、帰省のときに親と一緒に一度試しておくと、本番で迷いません。
つながらないときの順番を決める
連絡の順番は、あらかじめ決めておくと迷いません。まず本人の携帯電話と固定電話にかけ、つながらなければ171の伝言を確かめます。それでも分からなければ、実家の近くの人に様子を見てもらうよう頼みます。介護サービスを使っている親なら、担当のケアマネジャーや事業所も、利用者の安否を確認していることが多いものです。問い合わせが集中している時間もあるため、伝える内容を短くまとめてから連絡しましょう。

電話に出られない理由を知る
親が電話に出ないとき、悪いことばかり考えてしまいがちです。けれど実際には、停電で固定電話が使えない、携帯電話の電池が切れた、片付けに気を取られて着信に気づかない、といった理由も多くあります。つながらない時間が続いても、まずは順番どおりに確かめていくことが大切です。携帯電話の充電を保つため、乾電池式の充電器を実家に置いておくのも1つの方法です。情報を得る手段については高齢者と情報収集する在宅避難の備えで詳しく紹介しました。
- 何十回も電話をかけ続ける
- 情報がないまま車で向かう
- 親の近所の人を何度も急かす
- 確かめていない情報を広める
実家の近くで頼れる人をつくる

遠距離の親の防災で、最も心強いのは、実家の近くで親の様子を見に行ってくれる人です。災害の直後に親のそばにいられるのは、子どもではなく、ご近所や地域の人たちだからです。とはいえ、いきなりお願いするのは気が引けるという方も多いでしょう。帰省のついでに顔を合わせ、連絡先を交換しておくだけでも、いざというときに頼みやすくなります。頼れる人の候補を3つ紹介します。
ご近所に連絡先を渡しておく
帰省したときに、親と親しいご近所の方へ、ひと言あいさつをしておきましょう。「何かあったときは、ここに連絡をください」と、自分の電話番号を書いたメモを渡しておくと、相手も動きやすくなります。お願いは「様子を見て連絡してほしい」まで、と範囲を絞るのが、相手の負担を軽くするコツです。お礼の気持ちを、手土産などで形にしておくのもよいでしょう。ご近所との約束ごとは近所の助け合い 高齢者の防災で決めておくことにまとめています。
ケアマネジャーや包括に相談する
親が介護サービスを使っているなら、担当のケアマネジャーに、子どもの連絡先と「災害時はここに連絡してほしい」という希望を伝えておきます。介護サービスを使っていない場合は、実家のある地域の「地域包括支援センター」が相談先です。高齢者の暮らし全般の相談を受ける窓口で、市区町村ごとに設けられています。相談できる内容や支援の範囲は地域によって違うため、まずは電話で聞いてみてください。
民生委員と個別避難計画を知る
地域には、住民の相談にのる「民生委員」という人がいて、一人暮らしの高齢者を気にかけていることがあります。また、自力で避難するのが難しい人については、市区町村が「個別避難計画」を作る取り組みを進めています。親が対象になるかどうか、手続きのしかたは自治体によって違うため、実家のある市区町村の福祉の窓口や防災担当課に確認しましょう。計画の作り方は個別避難計画の作り方と相談先の全手順で紹介しました。
- 頼む範囲を先に決める
- 相手も被災者だと心得る
- 連絡先は紙でも渡す
- お礼は平時のうちに
よくある質問

離れて暮らす親の防災について、よく寄せられる疑問をまとめました。介護や避難の制度は地域によって運用が違うため、迷ったときは実家のある市区町村の窓口に確認してください。ここでは、遠距離ならではの悩みに答える形で、考え方の目安を紹介します。気になる項目だけ読んでいただいて構いません。
親が備えを嫌がるときはどうしますか
「年寄り扱いしないで」と言われると、話を進めにくいものです。防災のためと言うより、「私が安心したいから、これだけお願い」と、子どもの側の気持ちとして伝えると受け入れてもらいやすくなります。一度に全部ではなく、懐中電灯を枕元に置くなど、小さなことから始めましょう。
災害が起きたらすぐ向かうべきですか
発災直後は、道路や鉄道の状況が分からないうえ、余震の危険もあります。まずは連絡の順番に沿って安否を確かめ、交通の情報を確認してから動くほうが安全です。親が無事で、近くの人の助けもあるなら、落ち着いてから向かう判断も大切になります。
兄弟姉妹とはどう分担しますか
親に連絡する人、近所の人に頼む人、あとから実家へ向かう人と、役割を分けておくと混乱が減ります。誰か一人が全部を抱えると、続かなくなりがちです。家族のグループLINEなどで、親の薬の写真や連絡先を共有しておくと、誰が対応しても同じ情報で動けます。
見守りサービスは必要ですか
必ず必要というものではありません。ご近所や介護サービスとのつながりがしっかりしていれば、それで十分な場合もあります。一方で、近くに頼れる人がいない、親が一人で過ごす時間が長いといった場合は、選択肢の1つになるでしょう。料金や内容はサービスによって違うため、比べてから検討してください。
実家に送っておくと良いものは
水やレトルト食品に加えて、乾電池式のラジオや懐中電灯、携帯電話の充電器があると安心です。ただし、たくさん送っても、親が使い方を知らなければ役に立ちません。帰省のときに一緒に開けて、置き場所を決めるところまでできると理想的です。
まとめ

離れて暮らす親の防災は、災害の当日に駆けつけることよりも、駆けつけられなくても親が困らないように、平時のうちに整えておくことが中心です。帰省1回と電話1本、そして実家の近くの連絡先1つがあれば、遠くにいても親を守る準備は始められます。完璧を目指さず、できることから1つずつ進めていきましょう。
- すぐには行けない前提で備える
- 寝室の家具を先に確かめる
- お薬手帳を写真に残す
- 171を親と一緒に試す
- 連絡の順番を決めておく
- 近所に連絡先を渡しておく
今日は、実家の近くで頼れる人の電話番号を1つ、スマホに登録するところから始めてください。ご近所や地域のつながりだけでは心細い、親が一人で過ごす時間が長いという場合は、異変があったときに人が駆けつけてくれるサービスを検討するのも1つの方法です。


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