大きな地震や水害のあと、家の片付けを始める前に必要になるのが罹災証明書(りさいしょうめいしょ)です。家がどのくらい壊れたかを市区町村が調べて証明する書類で、支援金や税金の減免、家の修理の制度を使うときの入り口になります。ところが、手続きの窓口に並ぶのも、書類をそろえるのも、足の弱い高齢の親には大きな負担です。耳が遠いと、窓口での説明も聞き取りにくいでしょう。罹災証明の手続きは、多くの自治体で家族が代わりに進められます。片付ける前に写真を残し、必要な書類の場所を知っておけば、親に無理をさせずに済みます。この記事では、手続きの流れと代理申請のしかた、写真の撮り方、平時に決めておくことを順番にまとめました。
- 何から始めればいいのか
- 親を窓口に連れて行けない
- 代わりに申請できるのか
- 片付けを先にしていいのか
- 書類の場所が分からない

もし義母の家が壊れたら、役所の手続きは義母本人が行かないといけないのでしょうか。長い時間並ぶのは、とても無理だと思います。

その心配はもっともです。罹災証明の申請は、多くの市区町村で家族が代わりにできます。本人を窓口に連れて行くより、写真と書類を家族がそろえて動くほうが、ずっと現実的ですよ。
今日ひとつだけやるなら、親の家の外観を4方向からスマホで撮っておいてください。災害の前の家の姿は、被害を説明するときの大切な手がかりになります。
罹災証明書が必要になる理由

罹災証明書は、住んでいる家が災害でどのくらい被害を受けたかを、市区町村が調べて証明する書類です。被害の程度は「全壊」「半壊」「準半壊」などの段階で示されます。被災したあとに受けられる支援の多くは、この証明書を出すことから始まります。言いかえれば、証明書がないと、受けられるはずの支援に手が届きにくくなるということです。手続きの前に、罹災証明書がなぜ必要になるのかを3つの点から見ていきましょう。
支援の多くの入り口になる
罹災証明書は、被災者向けのさまざまな制度を使うときに求められます。たとえば、住まいを立て直すための支援金、義援金、住民税や国民健康保険料の減免、家の応急修理の制度などです。どの制度を使うか決まっていなくても、まずは証明書を取っておくと、あとから選べる道が広がります。制度の名前や内容は災害や自治体によって変わるので、案内はお住まいの市区町村で確認してください。
被害の程度で支援が変わる
罹災証明書に書かれる被害の程度によって、受けられる支援の種類や金額が変わります。家が全壊と認定されるか半壊と認定されるかで、使える制度に差が出ることも少なくありません。だからこそ、被害の様子を正しく伝えられるように、片付ける前の状態を写真で残しておくことが大切です。写真の撮り方は、このあとの章でくわしく紹介します。
被災証明書とは別の書類
似た名前の書類に「被災証明書」があります。罹災証明書が家の被害の程度を調べて証明するのに対し、被災証明書は、災害で被害を受けたという事実を証明するものです。家財や車の被害、勤め先への届け出などに使われることが多いでしょう。どちらが必要になるかは使う制度によって違うため、窓口で「何に使うか」を伝えて確認すると迷いません。
| 書類 | 証明すること | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 罹災証明書 | 家の被害の程度 | 支援金・減免・応急修理 |
| 被災証明書 | 被害を受けた事実 | 家財・車・勤め先への届け出 |
罹災証明の手続きの流れ

罹災証明の手続きは、大きく分けると「写真を残す」「申請する」「調査を受けて受け取る」の3つの段階で進みます。大きな災害のあとは窓口が混み合い、証明書が届くまでに数週間から1か月以上かかることもあります。焦って片付けを先に進めるより、写真を残してから申請するという順番を守ることが、いちばんの近道です。申請の受け付けは、被害が落ち着いてから市区町村が案内を出すのが一般的です。手続きの流れを3つの段階に分けて見ていきましょう。
片付ける前に写真を残す
家の中の物を片付けたり、壊れた所を直したりする前に、被害の様子を写真に撮っておきます。調査に来た人が実際の被害を見られなくても、写真があれば被害の程度を判断する材料になるためです。ただし、写真を撮るために危ない場所へ入る必要はありません。余震や崩れのおそれがあるときは、外から撮れる範囲で十分です。足元にはガラスや釘が散らばっていることもあるので、厚手の靴と手袋を身につけてください。
市区町村の窓口に申請する
申請は、被害を受けた家がある市区町村に行います。窓口のほか、郵送やインターネットで受け付けている自治体もあります。マイナンバーカードがあれば、国の手続きサイト「マイナポータル」から申請できる場合もあるでしょう。申請に期限を設けている自治体もあるため、案内が出たら早めに動くと安心です。期限や申し込み方は災害ごとに決まるので、市区町村のホームページや広報で確かめてください。
調査を受けて証明書を受け取る
申請のあと、市区町村の職員などが家を見に来て、被害の程度を調べます。調査の日は、できれば家族が立ち会い、写真を見せながら被害の場所を説明しましょう。親が一人で立ち会うと、聞き取りにくい説明に「はい」と答えてしまうこともあります。調査の結果に疑問があるときは、もう一度調べてもらう「再調査」を申し出ることができる場合があります。

高齢の親の代わりに申請する方法

罹災証明の申請は、本人が窓口に行かなくても進められる場合がほとんどです。足の弱い親を混み合う窓口に連れて行けば、長い待ち時間で体調を崩すおそれもあります。多くの自治体では、同じ家に住む家族や、委任状を持った家族が代わりに申請できます。ただし、代わりに申請できる人の範囲や必要な書類は、市区町村によって違います。親と一緒に住んでいるか、離れて住んでいるかで準備が変わるので、3つの場合に分けて見ていきましょう。
同じ世帯の家族が申請する
親と同じ住所に住み、住民票上も同じ世帯であれば、委任状なしで申請できる自治体が多くあります。申請する家族の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を持って行けば、手続きが進めやすいでしょう。同じ家に住んでいても、住民票の世帯を分けている場合は委任状を求められることがあるので注意してください。二世帯住宅などで世帯を分けているご家庭は、事前に確かめておくと安心です。
別に暮らす家族は委任状を
親と別の世帯の家族が申請するときは、親が書いた委任状を求められることが一般的です。委任状の書式は、市区町村のホームページからダウンロードできることが多いです。災害のあとに書式を探すのは大変なので、平時のうちに印刷して、親の分の記入を済ませておくのも一つの方法です。申請する家族の本人確認書類と、親の本人確認書類の写しも一緒に用意しておきましょう。
離れて住む親は郵送やネットで
遠くに住む親の家が被災した場合、すぐに駆けつけられないこともあります。そのようなときは、郵送やインターネットでの申請を受け付けているかを、親の住む市区町村のホームページで確かめてみてください。写真は、近所の方や親戚に撮ってもらってメールで送ってもらう方法もあります。離れて暮らす親の備えは離れて暮らす親の防災 遠距離でもできる備えでも紹介しています。
- 申請する家族の本人確認書類
- 親の本人確認書類の写し
- 委任状(別の世帯のとき)
- 被害の写真
- 連絡のつく電話番号
被害の写真の撮り方と残し方

写真は、罹災証明だけでなく、火災保険や地震保険の請求にも役立ちます。調査を待つあいだに雨漏りがひどくなったり、生活のためにどうしても片付けが必要になったりすることもあるでしょう。「撮ってから片付ける」を家族の決まりにしておけば、あとで被害を説明できずに困ることを防げます。とはいえ、上手に撮る必要はありません。スマホで枚数を多めに撮っておけば十分です。撮り方のこつを3つ紹介します。
家の外を4方向から撮る
まず、家全体が写るように、家から少し離れて4方向から撮ります。家が傾いていたり、屋根や外壁が壊れていたりする様子が分かるようにするためです。家の前の道路や隣の家が少し写っていると、どの家の写真かがひと目で分かります。屋根の上は自分で登らず、地上から見える範囲で撮ってください。
被害の場所は遠くと近くで
壁のひび割れや割れた窓などは、どの部屋のどこかが分かる少し離れた写真と、被害そのものが分かる近くの写真の2枚をセットで撮ります。近くの写真だけだと、どこが壊れているのかが伝わりにくいためです。ひび割れの大きさが分かるように、ペンや定規を並べて写すと、さらに分かりやすくなるでしょう。家財の被害も、捨てる前に1枚ずつ撮っておいてください。
浸水は深さが分かるように
水害のときは、水がどの高さまで来たかが、被害の程度を判断する大きな手がかりになります。壁に残った水の跡の横にメジャーを当てて、床からの高さが分かるように撮りましょう。家の中と外の両方で、水の跡を撮っておくと、より正確に伝わります。浸水した家の中は床が滑りやすく、汚れた水で感染するおそれもあるので、長靴とゴム手袋を身につけて入ってください。
- 家の外観を4方向から
- 屋根と外壁の壊れた所
- 部屋ごとの被害の様子
- 浸水した水の跡と高さ
- 捨てる前の家財
平時に家族で決めておくこと

災害のあとは、家族みんなが片付けや食事の準備で手一杯になります。その中で手続きの書類を一から探すのは、思っている以上に骨が折れる作業です。今のうちに「書類はどこにあるか」「誰が手続きするか」の2つだけでも決めておくと、被災後の負担はぐっと軽くなります。どれも、家族の会話の中で少しずつ進められることばかりです。平時に家族で決めておきたいことを3つ紹介します。
書類の置き場所を共有する
保険証券、通帳、印鑑、本人確認書類、お薬手帳などが家のどこにあるかを、家族で共有しておきます。高齢の親だけが場所を知っている状態だと、親が体調を崩したときに誰も見つけられません。大切な書類はコピーを取るかスマホで撮影し、離れて住む家族にも預けておくと、家が被害を受けたときにも困りません。火災保険や地震保険に入っているかどうかと、契約している保険会社の連絡先も、あわせて確かめておきましょう。
家の今の姿を撮っておく
被害がない今の家の姿を写真に撮っておくと、災害のあとで「どこが壊れたのか」を比べて説明しやすくなります。外観を4方向から撮るほか、家具の配置や家電が分かる部屋の写真も残しておくと、家財の被害を伝えるときにも役立つでしょう。撮った写真は、家族で共有できるアルバムやクラウドに保存しておくと、スマホが壊れても見返せます。
誰が手続きするかを決める
被災したときに、誰が窓口に行き、誰が親のそばにいるかを、あらかじめ決めておきます。手続きに慣れた家族が一人で抱え込むと、片付けや介護との両立で倒れてしまうこともあります。手続き、親の見守り、片付けを家族で分けておくと、一人あたりの負担を減らせます。家族の協力が得にくいときの頼み方は防災に協力しない家族の巻き込み方と頼み方を参考にしてください。

よくある質問

罹災証明の手続きと代理申請について、よく寄せられる疑問をまとめました。制度の細かい運用は自治体によって違うため、最終的にはお住まいの市区町村の窓口で確かめることが大切です。被災後は、市区町村の被災者支援の窓口のほか、地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに相談すると、手続きの進め方を一緒に考えてもらえることもあります。気になる項目だけ読んでいただいて構いません。
賃貸に住む親でも申請できますか
多くの自治体では、持ち家でなくても、その家に住んでいる人が罹災証明を申請できます。家の持ち主である大家さんとは別に申請する形です。支援の中には、住んでいる人が受けられるものもあるので、賃貸だからとあきらめずに申請してみてください。
片付けや修理を先にしてもいいですか
雨漏りを防ぐためのブルーシートなど、生活に必要な応急の処置はしても構いません。ただし、その前に被害の様子を写真に撮っておくことが大切です。壊れた家財を捨てるときも、捨てる前に写真を残しておくと、あとで被害を説明しやすくなります。
申請に期限はありますか
申請の期限は、災害ごとに市区町村が決めることが多いです。期限が過ぎると受け付けてもらえない場合もあるため、案内が出たら早めに申請しましょう。期限の延長が行われることもあるので、市区町村のホームページや広報で最新の情報を確かめてください。
調査の結果に納得できないときは
認定された被害の程度に疑問があるときは、もう一度調べてもらう「再調査」を申し出ることができる場合があります。申し出にも期限が設けられていることがあるので、結果を受け取ったら早めに内容を確かめましょう。新しく見つかった被害の写真があれば、一緒に持って行くと伝わりやすくなります。
親が委任状を書けないときは
認知症などで親が委任状を書くのが難しい場合は、まず市区町村の窓口に事情を相談してください。同じ世帯の家族であれば委任状なしで申請できる自治体もあります。成年後見制度を使っている場合は、後見人が手続きできることもあるため、地域包括支援センターやケアマネジャーにも相談してみましょう。
保険の請求にも罹災証明は使えますか
火災保険や地震保険の請求は、罹災証明とは別に、契約している保険会社へ連絡して進めます。保険会社が独自に損害を調べるため、罹災証明の認定と保険の判定が同じになるとは限りません。どちらの手続きでも被害の写真が役立つので、撮った写真は両方に使えるよう保存しておきましょう。
まとめ

罹災証明書は、被災したあとに受けられる支援の入り口になる書類です。手続きは「写真を残す」「申請する」「調査を受けて受け取る」の順番で進み、多くの自治体では家族が親の代わりに申請できます。片付ける前に写真を残し、書類の場所と手続きの担当を決めておけば、足の弱い親を窓口に並ばせずに済みます。細かい運用は自治体によって違うため、お住まいの市区町村の案内もあわせて確かめてください。
- 罹災証明は支援の入り口
- 片付ける前に写真を残す
- 同じ世帯なら家族が申請できることも
- 別の世帯は委任状を用意
- 外観は4方向、被害は遠くと近く
- 書類の場所と担当を決めておく
今日は、親の家の外観を4方向からスマホで撮ってみてください。次に、保険証券や通帳がどこにあるかを親に聞いておくと、もしものときの手続きがぐっと進めやすくなります。親の住む市区町村のホームページで、罹災証明の委任状の書式を探しておくのも、今日できる小さな一歩です。


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