足腰の弱い親や義母と暮らしていると、「災害のとき、この人を私一人で連れて出られるだろうか」という不安が、いつも頭のどこかにあるものです。その不安に対して国が用意した仕組みが、個別避難計画です。名前は難しく聞こえますが、中身は「いつ、誰と、どこへ、どうやって逃げるか」を紙一枚にまとめておくだけのものです。しかも、家族が一人で考えて書き上げるものではありません。市区町村やケアマネジャー、民生委員が一緒に作るのが本来の形で、家族はそこに「うちの事情」を持ち込む役です。この記事では、個別避難計画とは何かから始めて、作り方の全手順、相談先と頼み方、進まないときの工夫まで順にお伝えします。今日やることは、電話を一本かけるだけで十分です。
- どこに頼めばいいか不明
- 家族が作るものだと思っている
- 支援者のあてがない
- 順番待ちで進まない
- 作ったあと放置される

個別避難計画という言葉は聞いたのですが、書式もなければ相談先も分かりません。うちは支援してくれるご近所のあてもなくて、正直どこから手をつければいいのか。

それが普通です。この計画は市区町村が作る側で、家族はお願いする側です。まず「対象になりますか」と聞くところから始めれば足ります。
大切なのは、完成した紙よりも、作る過程で人と話がつながることです。個別避難計画づくりは、支援者を探し、移動手段を決め、避難先を確保するための「話し合いの場」を家庭に引き寄せる手続きだと考えてください。読み終えるころには、明日どこへ電話すればよいかが決まっているはずです。
個別避難計画とは何か

はじめに、この計画がどういうものかを整理します。個別避難計画とは、一人で避難することが難しい人ごとに、避難のタイミング・支援する人・避難先・移動手段を事前に決めておく計画です。2021年の災害対策基本法の改正で、作成が市区町村の努力義務になりました。つまり、家族が自力で用意する書類ではなく、行政が用意する仕組みに家庭が乗る形になります。まずは対象と中身、そして避難行動要支援者名簿との関係を押さえておきましょう。
対象になるのはどんな人か
対象は、災害のときに自分だけでは避難が難しい人です。杖歩行や車いすの高齢者、要介護認定を受けている人、認知症のある人、障害のある人、目や耳に不自由がある人などが含まれます。同居家族がいるかどうかで外れるわけではありません。
日中は高齢の家族と二人きり、といった家庭も十分に対象です。判断するのは市区町村なので、迷ったら自己判断で外さず、まず相談してみてください。
- 杖歩行や車いすの高齢者
- 要介護や認知症のある人
- 障害のある人
- 目や耳に不自由がある人
計画に書かれる内容
計画は、災害のときに他人が見ても動けることを目指して作られます。本人の状態、避難を始めるタイミング、支援する人の名前と連絡先、避難先、移動手段、配慮してほしいことが基本の項目です。書式は市区町村ごとに違い、A4で1枚から数枚に収まる分量が一般的です。
薬の内容やかかりつけ医、補聴器や杖の置き場所まで書ける欄があることもあります。細かいほど、当日手伝う人が迷わずに動けます。
- 本人の状態と配慮事項
- 避難を始めるタイミング
- 支援者の名前と連絡先
- 避難先と移動手段
- 薬とかかりつけ医
避難行動要支援者名簿との関係
個別避難計画の前段には、避難行動要支援者名簿という仕組みがあります。名簿は「支援が必要な人の一覧」で、個別避難計画は「その一人ひとりについて、実際にどう動くかを決めた紙」という関係です。
多くの市区町村では、名簿に登録された人から順に計画づくりを進めています。名簿に載っているかどうかを最初に確認すると、話が早く進みます。登録には本人の同意が必要な場合が多いので、そこは家族が背中を押す役になります。

個別避難計画の作り方の全手順

ここが記事の中心です。個別避難計画の作り方は、相談先へ連絡する、名簿の登録を確認する、面談で状態と避難先を整理する、支援者と移動手段を決める、という4つの段階で進みます。全部を一日で終える必要はなく、数週間から数か月かけて進むのが普通です。家族がやることは、事情を伝えることと、決まったことを家の中で共有することの2つに絞れます。順に見ていきましょう。
相談先へ連絡して対象か確認する
最初の一歩は電話です。市区町村の福祉担当課か防災担当課、地域包括支援センター、担当のケアマネジャーのいずれかに「同居の家族は個別避難計画の対象になりますか」と聞くだけで始まります。
ケアマネジャーがついている場合は、そこが最も話が早い入口です。介護の状況を分かっている人が間に入ると、面談の段取りまで進めてくれることが多いです。
避難行動要支援者名簿への登録を確認する
次に、名簿に登録されているかを確認します。載っていない場合は登録の手続きを取り、情報を地域の支援者へ提供することへの同意もあわせて確認してください。
同意をためらう方もいますが、同意がないと当日に地域の人が助けに来られません。「ご近所に知られる」ことへの抵抗があるときは、提供先を民生委員や自治会に限る運用ができるかを窓口に聞いてみましょう。
面談で状態と避難先を整理する
面談では、本人の体の状態と、家の危険度を突き合わせます。自宅が浸水や土砂の危険区域にあるかをハザードマップで確認し、危険がなければ在宅避難を基本に据えるという整理の仕方が現実的です。
危険がある地域なら、一般の避難所か、親戚の家か、福祉避難所か、行き先を決めます。ここで、階段の上り下りにかかる時間や、耳が遠くて放送が聞こえないことなど、暮らしの中の細かい事情を全部出しておいてください。
支援者と移動手段を決める
最後に、当日実際に動く人と方法を決めます。支援者は2人以上を書いておくのが基本で、1人だと、その人が不在だったり自分も被災したりしたときに計画が止まります。
移動手段は、家族の車、歩行での介助、車いす、地域の車と、状況ごとに書き分けます。あてになる人が家族の中に見当たらないときは、駆けつけサービスや見守りサービスも含めて、面談の場で相談すると選択肢が広がります。

作成の相談先と頼み方

相談先は一つではありません。ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の窓口、民生委員のどこからでも入れるので、つながりやすいところから声をかけるのが正解です。どこに頼むかで正しさが変わるわけではなく、話を前に運んでくれる人に当たるかどうかで進み方が変わります。ここでは、それぞれの得意分野と、電話で何と言えばよいかを整理します。
ケアマネジャーに頼む
介護保険のサービスを使っている家庭では、ここが最短の入口です。ケアマネジャーは本人の心身の状態を把握しているため、計画づくりの中心役として市区町村から依頼されることが増えています。
月に一度の訪問のときに、「個別避難計画を作りたいので手伝ってもらえますか」と伝えれば十分です。担当していない場合でも、どこへ聞けばよいかを教えてもらえます。
地域包括支援センターに相談する
介護認定を受けていない家庭は、こちらが入口になります。地域包括支援センターは高齢者の生活全般の相談窓口で、名簿への登録や自治体の担当課への引き継ぎまで面倒を見てくれます。
場所は「住んでいる市区町村名+地域包括支援センター」で調べられます。電話でも、窓口へ行っても構いません。
- 介護保険を利用中…ケアマネジャー
- 認定なし…地域包括支援センター
- 制度の確認…福祉か防災の担当課
- ご近所の調整…民生委員
民生委員や自治会に声をかける
当日、実際に手を貸してくれるのは地域の人です。民生委員や自治会の役員に事前に顔と事情を知ってもらうことが、支援者欄を埋めるための一番の近道になります。
頼み方は難しく考えなくて構いません。「災害のときに義母を一人にしてしまうかもしれないので、気にかけてもらえますか」と伝えるだけで、地域の防災の話し合いにつないでくれることがあります。回覧板を持ってきてくれたときが、話を出す好機です。
うまく進まないときの工夫

制度が始まって間もないため、地域によって進み方に差があります。順番待ちで進まない、支援者が見つからない、家族が非協力的という3つのつまずきには、それぞれ回り道の仕方があります。待っている間に何もできないわけではなく、家庭で先に決めておけることのほうが実は多いのです。ここでは、止まったときにどう動くかをお伝えします。
順番待ちで進まないとき
市区町村は、危険度の高い地域の人から順に作成を進めています。順番が回ってこないときは、待つあいだに家族版の下書きを自分で作っておくと、面談が一度で終わります。
下書きに書くのは、避難先の候補、移動にかかる時間、薬とかかりつけ医、頼れそうな人の名前です。紙でもスマートフォンのメモでも構いません。
支援者が見つからないとき
支援者のあてがないことは、決して珍しくありません。近所に頼める人がいないときは、その事実こそを窓口に伝えてください。支援者を探すのは本来、市区町村と地域の側の役割です。
あわせて、家族以外の手を増やす方法も検討します。緊急時に人が駆けつけるサービスを入れておけば、支援者欄に書ける連絡先が一つ増えます。
家族が協力してくれないとき
夫や兄弟が防災の話に乗ってこないという相談は、とても多いです。説得より、役割を一つだけ名指しで頼むほうが動いてもらえます。
「災害のときはお母さんを車に乗せる役をお願い」と一文で頼み、それを計画の支援者欄に書いてもらいます。紙に名前が載ると、当事者としての意識が生まれます。全部を分かってもらう必要はありません。

よくある質問

最後に、個別避難計画についてよく寄せられる疑問をまとめました。気になるところだけ読んでいただいて構いません。うちの場合に置き換えながら目を通すと、電話で聞くことがはっきりします。
費用はかかりますか
個別避難計画の作成に、家庭の費用負担は基本的にありません。市区町村の事業として行われ、ケアマネジャーが関わる場合の手当も自治体側で用意されています。もし費用の話が出たら、それは計画づくりとは別のサービスの話なので、内容を確認してください。
家族が作った計画でも有効ですか
家庭で決めておくこと自体には大きな意味がありますが、正式な個別避難計画は市区町村が作るものです。家族版の下書きは、面談のときの材料として役に立ちます。行政の計画に反映されると、地域の支援者にも情報が共有されるようになります。
本人が「必要ない」と言います
よくあることです。「迷惑をかけたくない」という気持ちが背景にあるので、支援ではなく段取りの話として伝えると受け入れられやすくなります。「私が慌てないために決めておきたい」という言い方が、いちばん通りやすい伝え方です。
作ったあとは何をすればいいですか
年に一度は読み返し、体の状態や連絡先の変化を反映させてください。あわせて、支援者と一度だけでも歩いてみるか、玄関から車までの動きを試しておくと、計画が現実に近づきます。介護度が変わったときは、その都度の見直しが必要です。
認知症のある家族でも作れますか
作れます。むしろ、環境の変化に弱いことを事前に書き残しておく価値が高い方です。落ち着かせる声のかけ方、ふだんの生活リズム、持って行くと安心する物などを配慮事項の欄に書いておくと、当日手伝う人が助かります。
在宅避難を選ぶ場合も必要ですか
必要です。家にとどまる判断も、避難のひとつの形として計画に書けます。どの段階までは自宅で過ごし、どうなったら移動するのかを決めておくほうが、当日の迷いが減ります。家が危険なときの行き先も、あわせて書いておいてください。
まとめ

個別避難計画は、一人で避難することが難しい人ごとに、いつ・誰と・どこへ・どうやって逃げるかを事前に決めておく計画です。作り方は、相談先へ連絡する、名簿の登録を確認する、面談で状態と避難先を整理する、支援者と移動手段を決めるという4つの段階で進み、その中心にいるのは市区町村であって家族ではありません。相談先はケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の窓口、民生委員のどこからでも入れます。順番待ちで進まないときは家族版の下書きを、支援者が見つからないときはその事実を窓口に伝えることが、次の一歩になります。紙が完成することよりも、作る過程で人がつながることに意味がある仕組みです。
- 作るのは市区町村と地域
- まず名簿の登録を確認
- 面談で在宅避難の可否を整理
- 支援者は2人以上を書く
- 進まないなら下書きを作る
- 年に一度は読み返す
今日すべてを片づける必要はありません。まずはケアマネジャーか地域包括支援センターに電話して、「同居の義母は個別避難計画の対象になりますか」と一つだけ聞いてみてください。それだけで、名簿の確認や面談の段取りへと話が動き出します。この計画は、家族の力不足を補うために国が用意した仕組みです。頼っていいのだと分かるだけでも、肩の荷は軽くなります。高齢の家族がいる家庭の備えについて、このブログではこれからも具体的な手順をお伝えしていきます。


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