実家の背の高いタンスや、廊下に積まれた荷物が気になっている。けれど親の家なので、勝手に動かしたり片付けたりはできない。義父母の家ならなおさら口を出しにくく、結局何も言えないまま帰ってくる。そんな方は少なくありません。手をつけられないのは、あなたの気づかいが足りないからではなく、「親の暮らしを尊重したい」という気持ちがあるからなのです。親の家の防災は、家を変えるところからではなく、何も変えずに「足す」ところから始めれば進められます。この記事では、親の家に手を加えづらいときの声のかけ方と、家を傷つけずにできる備え、義父母の家で気をつけたいことを紹介します。
- 家具の配置を変えたい
- 廊下の荷物を減らしたい
- 「まだ大丈夫」と言われる
- 義父母の家だと口を出せない
- きょうだいの目が気になる

実家に帰るたびに、寝室のタンスが倒れてこないか気になるんです。でも母の家だし、勝手に動かすわけにもいかなくて。

その気づかいは、とても大切なものですよ。親の家は親のものなので、変えずにできることから始めましょう。次に帰ったとき、枕元に懐中電灯を1本置くだけでも立派な一歩になります。
今日ひとつだけやるなら、次に実家へ行ったときに「何か困っていることはない?」と聞いてみてください。防災の話をする前に、親の困りごとを知ることが、いちばんの近道になります。
親の家の防災が進まない理由

親の家の防災が進まないのは、子ども世代の怠慢ではありません。長年その家で暮らしてきた親にとって、家具の位置や物の置き場所は、暮らしやすさそのものです。そこへ子どもが「危ないから変えよう」と言うと、親は自分の暮らし方を否定されたように感じてしまいます。うまくいかない原因の多くは、備えの中身ではなく、伝え方と順番にあります。手が止まりやすい理由を3つ見ていきましょう。
親の家は親の暮らしの場
何十年も住んできた家には、親なりの理由がつまっています。タンスがその場所にあるのは、出し入れがしやすいからかもしれません。子どもから見て危ない配置でも、親にとっては「これが一番使いやすい」という形になっていることが多いのです。その理由を聞かないまま変えると、親は使いにくさを我慢するか、こっそり元に戻してしまいます。変える前に、なぜそこにあるのかを聞いてみることが大切です。
「まだ大丈夫」と言われる
防災の話をすると、「うちは今まで何もなかった」「まだ自分で動ける」と返されることがあります。これは強がりというより、自分が弱ってきたと認めたくない気持ちの表れでしょう。「危ないから」より「私が安心したいから」と、自分の気持ちとして伝えると受け入れてもらいやすくなります。親の判断を正そうとするのではなく、子どもの心配を軽くしてほしいとお願いする形にすると、話が前に進みやすくなります。
義父母の家はなおさら言いにくい
自分の親なら多少は言えても、義父母の家となると話は別です。嫁や婿の立場から家の中のことを指摘すると、関係がぎくしゃくしないか心配になります。義父母の家のことは、まず配偶者に相談し、配偶者の口から伝えてもらうのが基本です。自分ひとりで背負わず、家族の中で誰が話すのがいいかを決めてから動くと、気持ちの負担がずいぶん軽くなるはずです。
- 「この家は危ない」
- 「年なんだから」
- 「こんな物は捨てたら」
- 「もう決めたから」
- きょうだいの前での指摘
親の家の防災 勝手にできないとき

親の家に手を加えられないときは、いきなり家具を動かすのではなく、段階を踏んで進めます。最初は家を何も変えずに物を「足す」だけ、次に置き場所を少し「動かす」、最後に器具を「付ける」という順番です。親が受け入れやすいところから始めれば、断られて話が終わることを防げます。一度に全部を頼まず、親が「それならいいよ」と言える小さな提案を重ねることが、いちばん確実な進め方です。具体的な進め方を4つに分けて紹介します。

変えずに足すことから始める
家具の配置や家の造りを変える話は、親にとって負担の大きい提案です。それに比べて、枕元に懐中電灯を置く、玄関に靴を1足置いておく、といった「足す」備えは、親の暮らしをほとんど変えません。何も捨てず、何も動かさない提案なら、親も断る理由がありません。小さな備えが一つ受け入れられると、次の話もしやすくなります。最初の一歩は、できるだけ小さく選んでください。
親の困りごとから話に入る
防災の話を正面から切り出すより、親がふだん困っていることから入るほうが自然です。「夜中にトイレへ行くとき暗くない?」「この棚、上の物が取りにくくない?」といった聞き方です。親の困りごとを解決する工夫が、そのまま地震の備えにもなるように組み立てると、親は「助かる」と感じてくれます。足元灯を付ければ夜のつまずきが減り、停電のときの明かりにもなります。暮らしの困りごとと防災を、一つにつなげて考えてみましょう。
一つずつ許可をもらう
親の家で何かを変えるときは、たとえ小さなことでも、一つずつ確かめてから手をつけます。「この箱、下の段に移してもいい?」と聞くだけで、親は自分の家を自分で決めているという安心を保てます。親が留守のあいだに片付けたり、黙って物を動かしたりするのは避けてください。善意でも、親にとっては信頼を損なう出来事になりかねません。時間はかかっても、親の返事を待つほうが、結果的に早く進みます。
第三者の声を借りる
家族の言うことには反発しても、ほかの人から言われると素直に聞ける親は多いものです。担当のケアマネジャーやかかりつけ医、地域包括支援センターの職員に、家の中の危ないところを見てもらう方法があります。自治体によっては、高齢者世帯の家具固定を手伝ったり、費用の一部を助成したりする制度があります。対象や内容は市区町村ごとに違うため、お住まいの地域の防災担当課や福祉課に問い合わせてみてください。行政の制度だと伝えると、親も話に乗りやすくなるでしょう。
- 「私が安心したいから」
- 「これ、置いておいてもいい?」
- 「夜、暗くて困ってない?」
- 「一つだけお願いがあって」
- 「ケアマネさんにも聞いてみよう」
家に手を加えずにできる備え

家具を固定したり、壁に金具を付けたりできなくても、親の家でできる備えはたくさんあります。物を置いておくだけ、紙を1枚貼っておくだけ、という備えでも、いざというときの動きやすさは大きく変わります。こうした備えは親の暮らしをほとんど変えないので、話を切り出すハードルも低くなります。「家を変える備え」ができないなら、「家を変えない備え」を先に固めておけばいいのです。すぐに始められる方法を4つ紹介します。
枕元と玄関に物を置いておく
地震は夜中に起きることもあり、そのとき親は暗い中で動かなければなりません。枕元に懐中電灯と靴、眼鏡を置いておくだけで、割れた物を踏まずに動ける可能性が高まります。置く場所を親と一緒に決めておくと、親自身が「ここにある」と覚えていてくれます。玄関にも、すぐ履ける靴と、薬を入れた小さな袋を置いておくと安心です。足元の備えについては高齢者の避難で見落としがちな靴と足元の備えでも紹介しています。
穴を開けない器具で家具を押さえる
壁や天井に穴を開けることに抵抗がある親でも、突っ張り棒や耐震マットなら受け入れてもらいやすいものです。どちらも外せば元に戻せるため、「家を傷つけない」と伝えられます。まずは親が寝ている部屋の、背の高い家具1台だけに絞って提案すると話がまとまりやすくなります。脚立に上っての取り付けは、親ではなく子ども世代が行ってください。器具の選び方は賃貸の家具固定 穴を開けない転倒防止の選び方にまとめました。
備蓄はおすそ分けの形で渡す
「非常食を用意して」と頼むと、置き場所がない、もったいないと断られることがあります。そんなときは、ふだん親が食べている物や飲み物を、少し多めに買って持っていくのも一つの方法です。防災用と構えず、「たくさん買ったからおすそ分け」と渡すと、親も気軽に受け取れます。食べ慣れた物なら、ふだんの食事で使いながら買い足していけるので、期限切れにもなりにくいでしょう。水や食べ物の回し方は在宅避難の備蓄 ローリングストックの回し方で詳しく紹介しています。
連絡先と薬の情報を一枚にまとめる
家の中を変えなくても、紙1枚にまとめた情報は大きな助けになります。家族の連絡先、かかりつけの病院、飲んでいる薬の名前を書いて、冷蔵庫の横など目につく場所に貼っておく方法です。お薬手帳のコピーを一緒に置いておくと、薬が切れたときや、本人がうまく話せないときに役立ちます。親が自分で書くと覚えやすくなるので、一緒に書き込む時間を作ってみてください。薬の備えは高齢の親の防災の備えと常備薬の持ち出し方を参考にしてみてください。

義父母の家で気をつけること

義父母の家の防災は、自分の親の家よりも、さらに慎重な進め方が求められます。同じ提案でも、実の子から言われるのと、嫁や婿から言われるのとでは、受け止め方が違うことがあるからです。どれだけ正しい内容でも、伝える人や順番を間違えると、家族の関係に影を落としかねません。義父母の家では、あなたが前に出るのではなく、配偶者を中心に家族で動く形を作ることが大切です。気をつけたいことを3つ紹介します。
配偶者を通して伝える
義父母に直接言いにくいことは、まず配偶者に話して、配偶者から伝えてもらいます。配偶者が防災に関心を持っていない場合は、「お母さんの寝室のタンスが心配で」と、具体的な一点だけを共有するのがおすすめです。気になっている場所を写真に撮って見せると、口で説明するより伝わりやすくなります。家族が防災に協力してくれないときの頼み方は防災に協力しない家族の巻き込み方と頼み方でも紹介しています。
きょうだいと方針をそろえる
親にとって子どもが複数いる場合、一人だけが話を進めると、ほかのきょうだいから「勝手に決めた」と思われることがあります。とくに家具の処分や家の改修のように、お金や財産に関わる話は注意が必要です。動き出す前に、きょうだいの間で「何を、誰が、どこまでやるか」を共有しておきましょう。グループでの連絡を一つ作って、決まったことを書き残しておくと、あとで行き違いが起きにくくなります。
親の物を勝手に捨てない
廊下や階段に置かれた荷物は、地震のときに避難の妨げになります。けれど、親にとっては思い出の品や、いつか使うつもりの物かもしれません。捨てるのではなく、まずは通り道から別の部屋へ「移す」提案にすると、親も受け入れやすくなります。処分するかどうかは、親が自分で決められるように時間をとってください。義父母の物ならなおさら、配偶者と一緒に確かめながら進めるのが安心です。
- 留守中の片付け
- 相談なしの家具の処分
- きょうだいに黙っての改修
- 配偶者を通さない指摘
- 一度にたくさんの提案
よくある質問

親の家の防災について、よく寄せられる疑問をまとめました。親の性格や家族の関係は家ごとに違うため、ここで紹介するのはあくまで一つの考え方です。気になる項目だけ読んでいただいて構いません。自治体の支援制度については、お住まいの市区町村の防災担当課や福祉課にあわせて確認してください。
何度言っても親が聞いてくれません
同じ話を繰り返すと、親はかえって頑なになることがあります。一度話題から離れて、親の困りごとを手伝うことから始めてみてください。ケアマネジャーやかかりつけ医など、家族以外の人から伝えてもらうのも一つの方法です。
親の家に勝手に器具を付けてもいいですか
穴を開けない器具であっても、親の了解を得てから付けるようにしてください。黙って付けると、親が不安に思って外してしまうこともあります。「寝ているときに倒れてこないように」と目的を伝えて、一緒に取り付けると納得してもらいやすくなります。
遠方に住んでいて、なかなか帰れません
帰省のときに一つずつ進めるだけでも、少しずつ備えは整います。電話で親の困りごとを聞いておき、帰ったときに必要な物を持っていくと効率よく進められます。離れて暮らす親の備えは離れて暮らす親の防災 遠距離でもできる備えにまとめました。
家具固定の費用は誰が出すべきですか
決まりはないので、親ときょうだいで話し合って決めるのがよいでしょう。自治体によっては、高齢者世帯の家具固定に助成や取り付けの支援があります。対象や金額は地域ごとに違うため、先に市区町村の窓口で確かめておくと話し合いがしやすくなります。
義父母と同居していても同じ考え方ですか
同居していても、義父母の部屋や持ち物は義父母のものという考え方は変わりません。共有の廊下や玄関の備えから始めて、義父母の部屋のことは配偶者を通して相談するのが安心です。同居の場合は毎日顔を合わせるので、小さな提案を少しずつ重ねやすいという良さもあります。
まとめ

親の家に手を加えづらいのは、親の暮らしを大切にしたいという気持ちがあるからです。家を変えずに足す備えから始め、親の了解を一つずつ得ながら進めれば、親の家の防災は少しずつでも確実に整っていきます。義父母の家では配偶者やきょうだいと方針をそろえ、自分ひとりで抱え込まないでください。全部を一度に進めなくても大丈夫です。
- 変えずに足す備えから
- 親の困りごとから話に入る
- 一つずつ許可をもらう
- 第三者や制度の力を借りる
- 義父母の家は配偶者を通す
- 物は捨てずに移す提案
次に実家へ行ったときは、親の寝室にある背の高い家具を1台だけ見てきてください。親が「それならいいよ」と言ってくれたら、穴を開けない突っ張り棒から始めてみるのがおすすめです。


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